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東京地方裁判所 昭和53年(ワ)8752号 判決

原告

鶴巻達也

ほか二名

被告

山本一夫

ほか一名

主文

1  被告らは各自原告鶴巻達也に対し金四二三四万五〇〇〇円と内金四〇〇〇万円に対する昭和五三年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告千徳宣弘は原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江に対し各金五五万円と内金五〇万円に対する昭和五三年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江の、被告千徳宣弘に対するその余の各請求は棄却し、被告山本一夫に対する各請求は棄却する。

4  訴訟費用は原告鶴巻達也と被告千徳宣弘及び被告山本一夫との間で生じたものは全部被告らの負担とし、原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江と被告山本一夫との間で生じたものは全部原告らの負担とし、同原告らと被告千徳との間で生じたものは、これを三分し、その一を被告千徳の、その余は原告らの負担とする。

5  この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは連帯して原告鶴巻達也に対し金四二三四万五〇〇〇円と内金四〇〇〇万円に対する昭和五三年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは連帯して原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江に対し各金二二〇万円と各内金二〇〇万円に対する昭和五三年九月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は、第1、第2項に限り、仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  事故の発生(以下、本件交通事故という。)

(一) 日時 昭和四五年四月一七日 午前八時ころ

(二) 場所 東京都足立区西新井四の一九先路上

(三) 加害車 普通乗用自動車(登録番号茨五ふ六九〇)

右運転車 被告千徳宣弘

(四) 被害者 原告鶴巻達也(以下、原告達也という。)

(五) 態様 本件交通事故現場所在のバス停留場でバスを待つていた原告らに被告千徳運転の加害車両が制限時速(四〇キロメートル毎時)を超える時速約八五キロメートルのスピードで突つ込み原告達也をはねとばした。

2  責任原因

(一) 被告千徳宣弘

被告千徳は加害車を自己のために運行の用に供していた者であるから、自動車損害賠償保障法三条に基づく賠償責任がある。

(二) 被告山本一夫は、被告千徳の実父であり、昭和四五年、本件交通事故発生の後に、原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江との間で本件交通事故により生じた原告らの損害を被告千徳と連帯して賠償する旨合意した。

3  傷害及び治療経過

(一) 原告鶴巻達也は本件交通事故により頭部外傷・頭蓋骨折・脳内出血・気管・食管抜去困難症等の傷害を負い、左記のとおり入通院による治療を受けた。

〈1〉 入院

昭和四五年四月一七日から同年五月二六日(四〇日間)まで水野整形外科に、昭和四五年五月二六日から同年八月一五日(八二日間)まで都立墨東病院に各入院し、いずれも付添看護を必要とした。

〈2〉 通院

同原告は、昭和四五年六月一七日から同五一年一〇月一五日(症状固定)まで都立墨東病院脳神経外科、耳鼻咽喉科などに通院した。

(二) 後遺症

原告達也は、一時はその生命が危ぶまれ、前記の治療により、昭和五一年一〇月一五日症状固定となつたが、脳外傷による神経・精神性の疾病、即ち左右の痙性片麻痺・知能障害・痙攣・行動異常の出現・気管カニユーレ抜去困難症等の後遺症が残つた。

4  損害

(一) 原告達也の損害 金七九六三万七八八七円

原告達也は、本件交通事故により以下の損害を被つた。

(1) 入院雑費 金一五四万九七二八円

原告は、前記入院期間中、雑費として合計金一五四万九七二八円の支出を余儀なくされた。

(2) 入院付添費用 金六〇万二六二〇円

(職業的看護・付添料)

〈1〉 昭和四五年四月一八日から同年五月二五日まで金一四万三六二〇円

〈2〉 同年五月二〇日から同月二九日まで(看護婦、訴外福本みや)金二万六〇〇〇円

〈3〉 同年六月一日から同月三〇日まで(看護婦、訴外里中ミヨ子)金七万八〇〇〇円

〈4〉 同年六月五日から七月四日まで(付添婦、訴外上野みさを)金五万八五〇〇円

〈5〉 同年六月八日から七月七日まで(付添婦、訴外氏屋あやを)金五万八五〇〇円

(家族看護料)

〈1〉 原告達也は、昭和四五年四月一八日から同年八月一五日までの一二二日の入院期間中、その病状が重篤であつたために職業的付添人に任せるだけでは不十分であり、父母である原告鶴巻昇吉、同鶴巻菊江の、とりわけ母の付添を必須不可欠としたので、右全期間、父母である原告らの付添看護を受けた。そこで、原告達也は右期間中一日一五〇〇円の割合による合計金一八万三〇〇〇円相当の経済的損失を被つた。

〈2〉 原告達也は、自己の病状が極度に悪化し急変が予想される場合に父母である原告ら両名が自宅から駆けつけるのでは危急の秋に間に合わないために、同原告らをして病院に隣接する旅館に宿泊することを余儀なくせしめ、これにより右父母に対し合計金五万五二〇〇円(一八日分)の支出を余儀なくさせた。

(3) 通院付添費用 金一一万六〇〇〇円

原告達也は、前記退院後も通院治療を余儀なくされたが、後に自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表第一級に該当する後遺障害を認定されたことからも明らかなように、昭和五〇年一一月一五日までの間、その通院に際しては両親である原告ら両名あるいはそのいずれかの通院付添が不可欠であつたところ、右期間中、一一六日間その通院付添を受けた。そこで原告達也は一日一〇〇〇円の割合による金一一万六〇〇〇円相当の経済的損失を被つた。

(4) 後遺症による逸失利益 金六八三二万九三三九円

原告達也は本件事故当時満一四歳の中学生であり、同人の就労可能期間は一八歳から六七歳までであり、その間の稼働による得べかりし利益の現価は金六八三二万九三三九円となる。その計算の基礎としては、先ず、一八歳から二一歳までは当該年度(昭和四九年から五二年)の賃金センサス第一巻第一表の当該年齢の男子労働者平均賃金により、また二二歳(昭和五三年)については同年の賃金センサスが未発表のため昭和五二年賃金センサスの右表の二二歳の男子労働者平均賃金により計算すべきである(なお、二二歳までの分については中間利息の控除はしない。)。次に、二三歳から六七歳までは、昭和五二年賃金センサス右表の全男子労働者平均賃金により、中間利息の控除は新ホフマン方式によるべきところ、その係数は現在原告達也は二三歳であるから二二、九二三である。

原告達也の前記後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表後遺障害別等級表一級三号に該当するものである。なお、同原告は本件事故以前軽度の右不全片麻痺の既存障害が存し、その程度は右等級表によれば一四級一〇号に該当する。したがつて、原告達也の本件交通事故による労働能力喪失率は100/100(一級)から5/100(一四級)を差し引いた95/100である。

計算式

18歳 75,400×12+105,100=1,009,900(円)……〈1〉

19歳 83,600×12+134,000=1,137,200(円)……〈2〉

20歳 113,400×12+303,600=1,664,400(円)……〈3〉

21歳 122,400×12+320,700=1,789,500(円)……〈4〉

22歳 122,400×12+320,700=1,789,500(円)……〈5〉

23~67歳 {(183,200×12)+616,900}×22,923=64,535,121(円)……〈6〉

〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉=71,925,621(円)

労働能力喪失率=95/100

71,925,621×95/100=68,329,339(円)

(5) 慰藉料 金一〇三九万円

〈1〉 入通院慰藉料 金三〇〇万円

入院四ケ月、通院七四ケ月。

〈2〉 後遺症慰藉料 金七三九万円

(6) 損害の填補

原告達也は、自動車損害賠償責任保険より後遺症に対する慰藉料として金三六九万円の支払を受けた。

(7) 弁護士費用 金二三四万五〇〇〇円

(二) 原告昇吉及び同菊江の各損害 各金二二〇万円

原告昇吉及び同菊江は、本件交通事故により、以下の損害を被つた。

(1) 慰藉料 各自金二〇〇万円

原告達也は、本件事故により重傷を負い、一時は生命が危ぶまれる状態にあり、その後、一命をとりとめたとはいうものの、六年にわたる入通院治療を余儀なくされたのみならず、後遺症も既に述べたとおり重度であつて知能障害により異常行動(例えば、鉄道レール上に石を置き電車を止めてしまうなど)がみられるなど「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要する」状態である。原告鶴巻昇吉は同達也の父であり、原告鶴巻菊江はその母として、本件交通事故により原告達也が右のような状態になつたことにつき死亡をも上廻る程の精神的苦痛を受け、これを慰藉すべき慰藉料としてはそれぞれ金二〇〇万円を相当とする。

(2) 弁護士費用 各自金二〇万円

5  結論

以上の次第であるから、原告鶴巻達也は被告千徳宣弘、同山本一夫に対し各自損害賠償金金七九六三万七八八七円の内金四二三四万五〇〇〇円及びうち弁護士費用相当の損害を除く金四〇〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年九月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を、原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江は被告千徳宣弘、同山本一夫に対し各自損害賠償金二二〇万円及びうち弁護士費用相当の損害を除く金二〇〇万円に対する訴状送達の日の翌日である昭和五三年九月一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因第1項の事実は認める。

2  同第2項のうち(一)の事実は認め、(二)の事実は否認する。被告山本一夫は、被告千徳宣弘の実父として道義的な立場から、本件交通事故の賠償問題について交渉の任に当つたのみである。

3  同第3項の事実は知らない。

4(一)  同第4項、(1)、(2)、(3)、(4)、(7)の各事実は知らない、(5)の事実は争う、(6)の事実は認める(但し、充当の主張については争う。)

(二)  同項(二)、(1)の事実中、原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江が原告達也の父母であることは認め、その余は知らない、(2)の事実は知らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因第1項(事故の発生)、(一)日時、(二)場所、(三)加害車、右運転者、(四)被害者、(五)態様の各事実は当事者間に争いがない。

二1  同第2項中、(一)の事実(被告千徳宣弘の運行供用者責任)は当事者間に争いがない。

2  成立に争いのない甲第一号証及び同第一三号証、甲第二一号証の被告山本一夫作成部分の同被告名下の印影が被告の印章によるものであることは被告山本一夫本人尋問の結果によりこれを認めることができるので右の印影は同被告の意思に基づき顕出されたものと推定されるから、真正に成立したものと推定すべきであり、その余の部分については証人石川万夫の証言及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二一号証、証人石川万夫及び同尾崎靖亮(但し、後記採用しない部分を除く。)の各証言、原告鶴巻昇吉本人及び被告山本一夫本人(但し、後記採用しない部分を除く。)の各尋問結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告千徳宣弘(以下、被告千徳という。事故時満一九歳)の親権者に非ざる実父である被告山本一夫(以下、被告山本という。)は、本件交通事故の発生した後、原告鶴巻昇吉(以下、被告昇吉という。)らとの示談交渉などの折に、私の子供の起した事故だから全責任を負う旨を幾度か明言していたが、事故後一ケ月前後を経過した昭和四五年五月ころ、右の旨を文書化することが問題となり、原告側の示談担当者訴外石川万夫は弁護士と相談のうえ後記の内容を認め、被告千徳の父母の各住所氏名欄及び原告達也(事故時、満一四歳)の父母の氏名欄を空白にした「念書」と題する文書を二通作成し、これを訴外尾崎靖亮の同席する場で被告山本に手渡したところ、数日後、同被告から被告山本及び被告千徳の親権者母訴外千徳酉子の各住所氏名が記され、各名下に印影が押捺された念書一通を前記訴外石川に戻されたので、原告昇吉及び原告鶴巻菊江(以下、原告菊江という。)は右念書(甲第二一号証)に署名捺印した。この「念書」は、前文において本件交通事故について「加害者の母(親権者)千徳酉子および父山本一夫は本件事故による損害金の支払について加害者と連帯して支払うことを約し」、次のとおり念書を交わすとして三項目の約定が記載されてある。即ち、第一項は「(一)本件事故による被害者の治療費、看護料、諸経費、慰藉料その他一切の損害は千徳酉子および山本一夫が加害者と連帯して誠意をもつて必らずお支払いします。」、第二項は既払金の確認、第三項は協議応諾義務をそれぞれ定める。

以上の事実が認められ(但し、原告昇吉及び同菊江が原告達也の父母であることは当事者間に争いがない。)右認定に反する証人尾崎靖亮の証言部分及び被告山本一夫本人尋問の結果部分は前掲各証と対比し、にわかにこれを措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。以上認定の事実たよれば、被告山本は被告千徳が惹起した本件交通事故につき、昭和四五年五月ころ、原告達也の共同親権者である原告昇吉及び同菊江に対し被告千徳の原告達也に対する本件事故による損害賠償債務につき連帯して保証する旨の契約を締結したものと認めるのが相当である。しかしながら、前記認定の「念書」により正式に合意したところ等の事実から、被告山本が原告昇吉及び同菊江に対し同原告両名の本件交通事故による固有の損害について被告千徳と連帯して保証する旨の合意もあつたと認めるには未だ不十分であり、他に右合意を認めるに足る証拠はないといわざるを得ない。

したがつて、原告昇吉及び同菊江の被告山本に対する本訴請求はいずれもその余の点を判断するまでもなく理由がないといわなければならない。

三  成立に争いのない甲第二ないし第一二号証及び同第一四号証、原本の存在とその成立に争いのない甲第二〇号証、原告鶴巻昇吉本人尋問の結果を総合すれば、次の事実を認められる。

1  原告達也(昭和三一年四月五日生)は、本件交通事故により頭部打撲、脳内出血、頭蓋骨折の傷害をうけ、昭和四五年四月一七日、事故後直ちに足立区西新井六―三二―一〇所在の訴外水野病院に入院し、同年五月二六日まで治療を受けたが、この間意識は消失し呼吸困難の危篤状態に立ち至つたこと数回の後、五月二〇日ころからようやく恢復に向い、次いで墨田区江東橋四丁目二三番一五号所在の都立墨東病院脳神経外科に転医した。同原告は、同訴外病院に転医した後も、数週間意識障害が継続し同年八月一五日まで入院治療を受けた結果、病状改善し退院するまでに至り、八月一六日から昭和五〇年一一月一五日までの二〇三七日間のうち一一六日訴外同病院に通院してその治療を受けた。原告達也は、以上の間に脳神経外科の外に、同病院の耳鼻科において昭和四三年七月一三日から同月二三日まで入院し気管カニユーレ抜去困難症で手術を受け、その後、昭和四五年六月一七日から同四六年七月二三日まで通院治療を受け、右疾病については昭和四九年五月二八日症状が固定した。また同院神経科において、原告達也が本件事故による頭部外傷後、てんかん発作(大発作)及びもうろう状態、短気、衝動行為等の性格変化が発現したので、「外傷後てんかん」の病名のもとに昭和四七年一一月九日から同五〇年一一月一五日まで一一〇一日間のうち二七日通院治療を受けた。

2  原告達也は、昭和五一年一〇月一五日、症状固定と判断され、脳外傷による神経・精神性後遺症、即ち、左痙性片麻痺の出現(中等度)、右痙性片麻痺の悪化(軽度)、知能障害の著しい悪化、痙攣の重症、頻回化、行動異常の出現(重症)、気管カニユーレ抜去困難症、言語障害の出現の後遺症が残り、右後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表(第二条関係)後遺障害別等級表第一級に相当すると認められる。

以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

なお、前掲甲第一〇、第一一号証と原本の存在とその成立につき争いのない甲第一六号証及び原告鶴巻昇吉本人尋問の結果によれば、原告達也は、本件交通事故による受傷以前の幼時から、右痙性片麻痺及び知能障害についてはそれぞれ軽度のものが存在していた(痙攣については軽度のものが四歳頃からあつたけれども一旦治癒していたものである。)のであり、同原告の右受傷前の状態は前記自動車損害賠償保障法施行令別表第一四級に相当すると認められる程度のものであることが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

四  (損害)

1  原告達也の損害

(一)  入院雑費 金三万六三〇〇円

原告達也は、訴外水野病院及び同都立墨東病院に合計一二一日入院したことは前記認定のとおりであり、一般に入院期間中は平均すると一日当り(昭和四五年当時)金三〇〇円程度の雑費を支出するのが通常であると認められるから、本件においても、右入院期間中右と同程度の支出をしたものと推定され、合計金三万六三〇〇円の支出を余儀なくされたものと認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  入院付添看護費用 金三二万六一二〇円

(1) 職業的付添看護費用

原告鶴巻昇吉本人尋問の結果とこれにより真正に成立したと認められる甲第一七ないし第一九号証、前掲甲第二〇号証と弁論の全趣旨及び前記認定の事実を総合すると、原告達也は〈1〉訴外水野病院に入院中、昭和四五年四月一八日から五月二四日までの間、極めて病状重篤であつたため、付添婦の付添を一日二名必要とし、右期間中、二名の付添婦の付添を受けたので合計金一四万三六二〇円の支出を余儀なくされ、〈2〉訴外墨東病院に入院中、同年六月一日から三〇日まで看護婦訴外里中ミヨ子の看護を受け金七万八〇〇〇円の付添看護費用を支払い、同年六月五日から七月四日まで付添婦訴外上野みさをの付添を受け金五万八五〇〇円の付添費用を支払い、同年六月八日から七月七日まで付添婦訴外氏家あやをの付添を受け金五万八五〇〇円の付添費用を支払つたことが認められ(他に右認定に反する証拠はない)が、前記病状及び後記原告ら父母による付添看護状況に鑑みれば、看護婦及び付添婦各一名による付添看護の必要性はあつたと認められるが、さらに付添婦の付添を必要とする事実を認めるに足る証拠はないので、右支出金一九万五〇〇〇円のうち金一三万六五〇〇円の限度で本件交通事故と相当因果関係ある支出であると認めるのが相当である。原告は同年五月二〇日から二九日まで看護婦訴外福本みやの付添を受け金二万六〇〇〇円の付添看護費用を支出したと主張するが、同訴外人による付添看護及び費用の支出の各事実を認めるに足る証拠はない。

(2) 近親者付添看護費用

原告鶴巻昇吉本人尋問の結果と前記認定の事実関係によれば、原告達也は昭和四五年四月一八日から同年八月一五日までの一二一日にわたる入院期間中、病状が重篤であつたために父母である原告鶴巻昇吉、同菊江の両名あるいはその一方の付添看護を受けたが、右期間のうち、前記認定の看護婦、付添婦の付添看護を受けていなかつた期間、昭和四五年五月二五日から三一日までの七日間と同年七月八日から八月一五日までの三九日間の計四六日間、一日一〇〇〇円の割合による合計金四万六〇〇〇円相当の経済的損失を被つたととが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。しかし、看護婦等の付添看護を受けていた期間中になお父母の付添看護の必要性があつたことを認定するためには原告鶴巻昇吉本人尋問の結果だけでは足りず、他にこれを認むべき証拠はないといわざるを得ない。したがつて、右期間中の原告らの付添看護は本件事故と相当因果関係のある経済的損失とはいえない(この点は原告昇吉及び同菊江の慰藉料を算定する際に十分に斟酌されるべき事柄である。)。

また、父母である原告らが原告達也の看病等のために病院の近所にある旅館に宿泊した費用については、宿泊及びその支出の各事実を認めるに足る証拠がない以上、相当性の判断をするまでもなく理由がない。

(三)  通院付添費用 金五万八〇〇〇円

前記認定の事実及び原告鶴巻昇吉本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告達也は訴外墨東病院を退院した後も昭和五〇年一一月一五日までの間に一一六日通院を余儀なくされ、通院に際しては父母である原告ら両名あるいはその一方の付添が不可欠であつたところ、原告らは全通院期間中その付添をしたので通院付添費用としては一日少なくとも金五〇〇円の割合による金五万八〇〇〇円相当の経済的損失を被つたと認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。

(四)  後遺症による逸失利益 金三六八九万三四九九円

前記認定の事実及び前掲甲第一一号証並びに原告鶴巻昇吉本人尋問の結果によれば、原告達也は昭和三一年四月五日生れの男子中学二年生(満一四歳)であり、中学一年生の間は区立中学校の普通学級に通学していたが学業の遅れが目立つとの理由で本件事故の一週間余前から区立中学校の特殊学級に転じたものであつて、事故前の原告達也の状態は軽微な右片麻痺、軽症精神発達遅滞、ほとんど治癒と判定される軽症てんかんがあつたけれども、日常生活諸動作は自立し、元気に学校に通学し医療を要しない安定した状態にあり、自動車損害賠償保障法施行令別表の一四級相当であつたことが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

以上認定の事実を前提として、経験則に照らせば、原告は高校進学は困難としても中学校卒業後の昭和四七年四月一日から少なくとも六四歳に達した昭和九五年三月末日まで四九年間にわたり中学校卒業の男子労働者として就業稼働し、この間その労働に応じた収入を得ることができる高度の蓋然性の存在を推認できるところ、前記認定の事実関係並びに原告の本件交通事故の前と後における労働能力の喪失割合に鑑れば、原告達也は右四九年間の稼働期間中、本件事故により平均してその労働能力の九五パーセントを喪失したと認めるのが相当であり、また本件交通事故に遭わない場合、原告が上記稼働可能期間に得べかりし年収は、〈1〉 昭和四七年四月一日から一年間は昭和四七年賃金センサス第一巻第二表による全産業・企業規模計・男子労働者・新中卒の全年齢平均年収額である金一二六万五五〇〇円、〈2〉 昭和四八年四月一日から一年間は昭和四八年賃金センサス右同様の男子労働者の全年齢平均年収額である金一五三万〇三〇〇円、〈3〉 昭和四九年四月一日から一年間は昭和四九年賃金センサス第一巻第一表による全産業、企業規模計、の男子労働者、新中卒の全年齢平均年収額である金一八九万三七〇〇円、〈4〉 昭和五〇年四月一日から一年間は昭和五〇年賃金センサス右同様の男子労働者の全年齢平均年収額である金二一六万三九〇〇円、〈5〉 昭和五一年四月一日から一年間は昭和五一年賃金センサス右同様の男子労働者の全年齢平均年収額である金二三二万〇三〇〇円、〈6〉 昭和五二年賃金センサス右同様の男子労働者の全年齢平均年収額である全二五五万九八〇〇円、〈7〉 昭和五三年四月一日以降の四三年間は昭和五三年賃金センサス右同様の男子労働者の全年齢平均年収額である金二七一万八八〇〇円をそれぞれ下廻らないものと推認するを相当とするから、以上を基礎としてライプニツツ式計算法により年五分の中間利息を控除して原告の後遺障害による逸失利益の現価を計算すると左記計算式のとおり金三六八九万三四九九円(一円未満切捨)となる。

計算式

(86,000(円)×12+233,500(円))×(1-0.05)×(2.7232-1.8523)=1,045,935.75……………〈1〉

(105,000×12+270,300)×(1-0.05)×(3.5459-2.7232)=1,192,103.70……………〈2〉

(128,300×12+354,100)×(1-0.05)×(4.3294-3.5459)=1,403,231.70……………〈3〉

(142,400×12+455,100)×(1-0.05)×(5.0756-4.3294)=1,541,778.75……………〈4〉

(157,400×12+431,500)×(1-0.05)×(5.7863-5.0756)=1,565,042.35……………〈5〉

(173,500×12+477,800)×(1-0.05)×(6.4632-5.7863)=1,653,630.80……………〈6〉

(183,500×12+504,800)×(1-0.05)×(17.5459-6.4632)=28,491,776.80……………〈7〉

〈1〉+〈2〉+〈3〉+〈4〉+〈5〉+〈6〉+〈7〉=3,689万3,499.85円

なお、原告達也は後遺症による逸失利益は金六八三二万九三三九円となる高度の蓋然性がある旨主張するが、右金三六八九万三四九九円を超えてとれを認めるに足る証拠はない。

(五)  慰藉料 金七〇〇万円

前記認定の原告達也の本件事故の受傷状況及び受傷内容、治療経過そして重度の後遺障害による多大の精神的、肉体的苦痛を永遠に受け続けこれに耐えて生活しなければならないと推認されること、事故による受傷前の健康状態、その他本件に顕れた諸般の事情を慎重に勘案考慮すると、原告の精神的苦痛に対する慰藉料としては金七〇〇万円と認めるのが相当である。

(六)  損害の填補 金三六九万円

原告達也が、自動車損害賠償責任保険より同保険金金三六九万円の支払を受けたことは当事者間に争いがない。

(七)  弁護士費用 金二〇〇万円

弁論の全趣旨によると、原告達也は原告訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び謝金として各相当額の支払を約していると認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易及び前記損害額に鑑みると弁護士費用としては金二〇〇万円をもつて本件交通事故と相当困果関係のある損害と認めるのが相当である。

(八)  合計

原告鶴巻達也が有する右(一)ないし(五)及び(七)の各損害項目の金額を合計した金額から(六)の損害の填補分を控除した損害額は金四二六二万三九一九円となる。

2  原告昇告及び同菊江の各損害

(一)  慰藉料 各金五〇万円

前記認定の事実及び前掲甲第一〇、第一一号証並びに原告鶴巻昇吉本人尋問の結果によれば、原告昇吉及び同菊江の間の嫡出子である原告達也は本件交通事故により頭部打撲、脳内出血、頭蓋骨折の傷害を受け、昭和四五年四月一七日から同年八月一五日まで入院し、以後昭和五一年一〇月一五日まで約六年間の通院を続けたが、この間意識消失が続き、呼吸も困難となる危篤状態に幾度も至り、ようやくのことで意識回復し、その後次第に恢復するようになつたのであるが、後遺症としては極めて重篤な状態であり(自動車損害賠償保障法施行令別表第一級相当)、事故後の状態としては原告達也の日常諸動作は困難となり独力で生活をすることは不可能であり、構音障害が起り発音は不明瞭となり、流涎もあり、読字、書字、計算は完全に不能、記憶力は著しく低下し正常な意志の疏通は欠如し、痙攣は平均して月に一ないし二回起り、始まると日に四、五回連続して全身の大発作が起り、また精神興奮、易刺激性が強まり異常な反社会的行動に出ることが多く、父母である原告らは日夜原告達也を注視せざるを得ない結果、心身ともに疲労し切つた状態にあり、将来ともにこれに耐えて行かなければならないこと、受傷前の原告達也の状態は軽度の知能障害等が存在してはいたものの将来普通の社会生活を自力でそれなりに過しうる能力は十分であつたことなどが認められ、他に右認定に反する証拠はない。以上認定の事実によれば、父母である原告昇吉及び同菊江の本件交通事故で原告達也が被つた傷害による精神的苦痛は同原告の生命侵害の場合に比し著しく劣るものではないと認められるから、原告昇吉及び同菊江はそれぞれ被告千徳宣弘に対して右精神的苦痛に対する慰藉料の損害賠償請求権を有するものとするのが相当である。

そして前記したような事故の態様、原告達也の後遺障害の程度内容、重篤なる後遺障害のもとに生きる子供を背負うことになつた原告昇吉及び同菊江の察するに余りある心情、その他一件記録に顕れた諸般の事情を熟慮勘案すると、原告両名の精神的苦痛に対する慰藉料としては各金五〇万円と認めるのが相当である。

(二)  弁護士費用 各金五万円

弁論の全趣旨によると、原告昇吉及び同菊江は同原告ら訴訟代理人に本訴の提起と追行を委任し、その費用及び謝金として各相当額の支払を約しているものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経過、事件の難易及び前記損害額に鑑みると弁護士費用としては各金五万円をもつて、本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

五  よつて、(一)原告鶴巻達也の被告千徳宣弘及び同山本一夫に対する本訴各請求は、被告らが同原告に対しそれぞれ本件不法行為に基づく損害賠償債権金四二六二万三九一九円の内金四二三四万五〇〇〇円及びこの内金四〇〇〇万円に対する訴状送達の日であることが記録上明らかな昭和五三年九月一五日の翌日である一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払をなすべき義務があつて請求全部に理由があるから、これを認容することとし、(二)原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江の被告千徳に対する本訴各請求は、同被告には同原告らに対しそれぞれ本件不法行為に基づく損害賠償債権各金五五万円及び各内金五〇万円に対する訴状送達の日であること記録上明らかな昭和五三年九月一五日の翌日である一六日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払をそれぞれなすべき義務があつて右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の各請求はいずれも失当として棄却し、(三)原告鶴巻昇吉及び同鶴巻菊江の被告山本一夫に対する本訴各請求は、その余の点を判断するまでもなく、全部理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 稲田龍樹)

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